MEDIA SYSTEM

Presents Vol.22

弊社代表 安田のメールマガジン アーカイブです。

本質

[揺るがない価値観があるかどうか]

経営者として、日々、たくさんの方とお会いする機会がありますが、
その中で魅力を感じる方にはある共通点があります。
それは、「この人は本質を見抜いている」という印象を受けることです。

そうした人にはある強さを感じます。
ちょっとやそっとでは決してへこたれない。折れそうにない。
それは結局のところ、
自分が正しいと思えるまで煮つめた答えを持っているかどうか。
つまり自分なりの価値観を持っているか。
ここに尽きるように思います。

自分で築き上げた判断基準があるからこそ、
その人からは相手をうなずかせる発言も生まれるのでしょう。
腹の底から出た言葉は力強く、そして鋭く相手に突き刺さります。
しかも、あらゆるテーマに対して確固とした意見が述べられ、
ぶれることがありません。
そのように、いわゆる成功者と言われる人は、
たとえそれが少々ゆがんだ形であっても、
揺るがない価値観が確立しているように思います。

一方、いくら素晴らしい発言でも、
それは誰かの受け売りだなと感じさせる人がいます。
人はそうした浅さ・軽さをすぐに見抜くものです。
なぜなら、その言葉には魂が乗っていないからです。
すぐにぶれてしまう人に、
だれかの尊敬が集まることはありません。


[最初の「分かった」で満足しない]

以前より、ビジネスにおいてEQという言葉が注目されています。
これは自分および相手の心の理解度と言い換えてよいでしょう。
それは結局のところ、どれだけ人間の本質を分かっているか。
僕はそう考えています。つまり、企業にとってもやはり、
人間の本質が見抜ける、強い人間が求められているわけです。

では、どうしたら本質を見抜くことができるのでしょうか。

まず言えることは、物事の表面だけを見て、
安易に理解した気持ちにならないことです。

有名な話ですが、
イチローは毎日、昼食にカレーライスを食べるそうです。
この事実だけを見て、イチローに憧れる人が、
カレーライスを毎日食べ始めたとします。
つまり、カレーライスがイチローを作り上げた、という理解です。
当然、それでイチローになれるはずもありません。

また、ではカレーライスを食べていなければ
今のイチローがなかったのかといえば、それもあり得ないでしょう。
つまり、イチローの本質は毎日のカレーライスにはないのです。

これはちょっと極端すぎる例ですが、
多かれ少なかれ、人は何かを理解しようとするとき、
このような浅い認識で済ませてしまう場合が多いのです。

僕自身、起業をして会社を経営しています。
その事実を見て、
「母ひとり子ひとりの生い立ちだったからきみは上手くいったんだよ」
などと言う人がいます。
これも極めて安易であり、表面的な見方にすぎません。

それもひとつの成功の要素であったかもしれません。
しかし、今に至るプロセスには偶然も、必然も、努力も、運もありました。
つまり、そこには何十何百という複雑な要素が絡み合い、
今日の状態を作り上げているのです。
それを丁寧にひもといて考えるという作業を放棄して、
わかりやすい答えに逃げ込んでいては、
決して本質に近づくことなどできないのです。

もうひとつ、分かりやすい例を挙げましょう。
アップル社のiPodシリーズは、携帯デジタル音楽プレイヤーとして、
国内シェア50%を獲得しています。
その圧倒的な人気の理由を、
「コンパクトな機能を備えているから」
「ユニークなデザインだから」
と答えてしまうのは簡単です。

でも、そこで終わっては本質には近づけません。
どの要素がなければうまくいかなかったのか?
iPod以外の他製品であったらどうだったのか?
販売戦略の時期がよかったのではないか?
さまざまな側面から深く掘り下げていくのです。

実際にiPodの本質をひもとくには、
それ以前に同じ携帯音楽プレイヤーとして一世を風靡した
ウォークマンまでさかのぼる必要があります。

ウォークマンは、カセット・CD・MDと使用メディアを変えながら、
ずっと人気を博してきました。
その本質はまさに名前の通り、
音楽を外に持ち出したことにあります。
通勤・通学の移動時間や待ち時間に気軽に音楽を楽しむ。
そんな新しいライフスタイルを生み出した、
まさに画期的な商品でした。

しかし、その一方でウォークマンにも欠点がありました。
本体が大きく、重かったため、
カバンに入れる等をしなければ持ち歩きには不便でした。
また、激しい動きをすると音飛びがするなど、対応が不十分でした。

そうしたマイナス部分を取り除き、
ウォークマンの要素を全て継承して進化させたもの。
それがiPodだったのです。
本体は極めて軽く、コンパクトです。
しかも音飛びもなく、運動中でも好きな音楽が楽しめる。
アップル社では、ランニングやダンスシーンを用いたコマーシャルによって
その魅力を訴求しました。

つまり、“ウォーキング”から“ランニング”へ、新しくマーケットを切り開いたのです。

では、なぜランニングなのでしょうか。
ランニングは健康状態を維持するために必要な運動です。
とくに欧米の映画やドラマでランニングするシーンを観ますが、
それはまさにインテリジェンスのある成功者の象徴です。
アメリカ合衆国で最もそれを象徴するブッシュ大統領も、
健康管理のため毎朝ランニングをするそうです。
逆に健康管理のできない人は、
生活者としてある種失格とみなされてしまいます。
ビジネスマンであれば、減給や昇進できないこともあるほどです。

しかし、ランニングにステータスを感じても、
自らすすんでする人は少ないでしょう。
それはランニングが苦痛だからです。

iPodはこうしたマイナス部分にも効き目がありました。
iPodを身に付けて音楽を聴きながら軽快にランニングする。
そんなシーンを映画で観たとき、
走ることの苦痛感をまったく感じさせませんでした。
つまり簡単に成功者の証が得られる姿を想像できたわけです。
そうやってiPodは多くの人に走る喜びや楽しみをもたらしました。
快適なランニングへと導いたのです。

iPodは音楽を楽しむ新領域を作り出したことで、世界を席巻しました。
さらにiPodを持つことで成功者のステータスを得られる。
こうしたブランディングにも成功し、2次的に波及していきました。
いまや携帯デジタル音楽プレーヤーの象徴は、
iPodであることを印象づけています。
そうして多くのファンを獲得することができたのです。
僕はこれこそがiPodの本質だと考えます。

本質を見抜くには、このように最初の「分かった」で満足しないことです。

その真逆の場合であったらどうか。
その条件がもし与えられていなかったらどうか。
何層にも検証を重ね、ねばり強く考えていくことです。
そうやって深く物事を掘り下げていくことで、
自らの価値観が鍛えられ、本質を見抜く目も養われていきます。

本質を見抜くことが、
極めて難しいテーマであることは承知しています。
しかし、それが人間に強さを与え、
成功をもたらすこともまた事実なのです。
そうであれば、たとえ多くの時間と労力を費やしてでも、
本気で取り組むべきテーマであると僕は考えるのですが、
いかがでしょうか。