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Presents Vol.14

弊社代表 安田のメールマガジン アーカイブです。

競争42、協力58

[仲間が喜びを与えてくれる]

一昨年のこととはいえ、球界のきら星のようなメンバーが揃い、
世界一を獲得したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。
あの興奮は、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。
僕もテレビにかじりついて応援したひとりです。

大会の経緯はご存知のとおり。まさに起死回生からの優勝でした。

王ジャパンのチームリーダーとして、
あのとき誰よりも喜んでいたのがイチロー選手だったと思います。
いつもはクールな彼が、顔をくしゃくしゃにして喜びを爆発させていました。
「とにかく最高です」「みんな最高です」
チームメイトと抱き合い、何度も何度もテレビカメラの前でそう叫んでいました。

その姿を見たとき、僕はハッとしました。

実はWBCの少し前、イチロー選手は
262安打というメジャー最多安打記録を達成しています。
いかに多くのヒットを打つか。
彼のプレースタイルを見る限り、おそらくそれが究極の目標であったはずです。
そして、とうとうその目指す頂にたどり着いた。

しかし、テレビに映ったイチロー選手を観たとき、意外な気持がしました。
ヒットを打って塁に出た彼は、
その偉業をたたえる大観衆に向かってうれしそうに手を振りました。
けれど、想像したほどの喜びようではないのです。

彼にとって、追い求めたものをやっと掴んだ瞬間。
人生最高とも呼べる瞬間のはずです。
そうであるにもかかわらず、うれしさがあまり伝わってこないのです。
そのときはずいぶんクールだなという程度の印象でしたが、
WBCでの歓喜を目の当たりにしたとき、ハッと気づきました。

WBCと最多安打。
その落差を生んだのは、共に喜び合える仲間がいたか。
これだったと思います。

仲間(チームメイト)と目的(優勝)を共有し、協力し合う。
そうやって掴んだWBCでの勝利は、メジャー最多安打というたったひとりの孤独な勝利より、
イチロー選手に何倍もの喜びをもたらしたのではないでしょうか。

どんなにおいしい料理でも、ひとりで食べるのでは味気ない。
けれど、誰かといっしょであれば、ずっとおいしく感じられます。

同じように、仲間と目的を共有し、それを達成する。
そのときの感動は、ひとりで勝ち取ったどんな勲章よりずっと大きいはずです。
そして、共有できる仲間が多いほど、たくさんの協力があるほど、
その喜びも大きくなる──。
イチロー選手を見て、僕はそのことを改めて思ったのです。


[競争だけでは心の半分しか埋まらない]

協力は、人に大きな喜びを与えてくれます。
けれど、まわりを見渡すと、そうした状況はどんどん失われている。
とくに企業では、その対極にある競争一辺倒になっています。
どの社員も自分のことだけで精一杯、
仲間を思いやる余裕などありません。

僕はそれを「70センチの近視眼」と呼んでいます。
机の前後の幅は70センチ。
そこに座ったときの横の視界も70センチ。
つまり、誰もが自分の机程度の視野しか持てなくなっているのです。

しかし、なぜ人はこうも競争にとりつかれるのでしょうか。

たしかにそれは生物としての宿命であると言えるでしょう。
どんな生物も、自らの遺伝子を後世に残すために争います。
クジャクが美しい羽を広げ、シカが立派な角を生やすように、
遺伝子の優秀さを証明しようとする。
もちろん人間も同じです。
他人より優れていることを主張する、その必然性があるのです。

つまり、競争欲求とは人間が本来持っているもの。
企業がそこに油を注げば、燃え上がるのも当然なのです。

けれど一方で、競争だけでは心の半分しか埋まらないのもまた事実です。
弱肉強食の荒々しいだけの世界には、人間の心は耐えられません。
競争の真逆にあるもの。
安定や安心を求めるのもまた人間なのです。

その理由は、人間がもともと集団で生きる動物だからです。
ひとりで生きていると、獲物を捕れないことが、すなわち死を意味します。
しかし、集団でいれば誰かが捕った獲物を分けてもらうことができる。
その代わり、自分の獲物を誰かに分け与えることもする──。
これが協力という概念の根源だと思います。

片方で競争を求めながら、もう片方で協力し合い、
安心に暮らしたいと欲求する。それが人間です。
もし企業が競争しか与えないのであれば、
それが人間本来にとって不十分なことは明らかです。

いまは競争ばかりが行き過ぎた時代です。
企業は、その対極にある協力をもっと重視するべきではないでしょうか。

競争42、協力58。
僕は、あえてそのくらいの比率で取り組んではどうかと思っています。
競争にばかり行き過ぎた状態を、揺り戻す。
その意味でも協力を少しだけ多くする。
そうすることで社員の心は安定し、働く意欲も上がり、職場の活気も生まれる。
当然、会社の成果も上がっていくはずです。

競争と協力をいい加減でバランスさせる。
これこそが、人と企業の両方を
幸せにしてくれる道ではないでしょうか。