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Presents Vol.03

弊社代表 安田のメールマガジン アーカイブです。

42℃経営

[「いい加減」が生んだ42℃経営]

起業して、僕が最初にしたこと。
多くの社長と同じように、それはスローガン作りでした。
たとえば「売上げ30億円を達成しよう!」。
初めは目新しくもあり、社員の気持ちをまとめてくれます。
しかし、経営の状況は常に変化します。
当然ながら違和感を持つ社員も現れ、言葉の求心力が失われる。
するとまた新しいスローガンが必要となる……。
まず思ったのは、果たして社長とは一生こんなことを続けるのか、
という徒労感でした。

会社員時代、当時の社長の口癖が
「会社ではなく、自分のために仕事をしろ」でした。
言ってみれば、これも一種のスローガンでしょう。
しかし、僕には納得できませんでした。
正論風ではあります。
しかし、自衛隊時代に機関銃を背負って50kmの行進演習を
経験してきた身にとっては、それだけではやる気が起きない。
足の血まめが破れ、立っているだけでも限界。
そんな状態でも、仲間の誰かが倒れれば不思議と力が湧き、
代わりに荷物を背負って歩き出す自分がいたからです。

そうした経験から気づいたのは、
スローガンをひとつに固定してしまう愚かさでした。
それがそもそもの違和感を生んでいる。
そうであるなら、大切なものをひとつだけ掲げるのではなく、
その対極にあるものも同時に掲げればいい。
たとえば、事業とはクライアントのためであり、自社のためでもある。
仕事とは自分のためであり、会社のためでもある。
つまり、どちらかではなく、両方なのです。

しかし、そこまでは理解したのですが、
実際それだけでも上手くいきませんでした。
二つのスローガンを対等に位置づけると、人によって片方だけを重視するため、
社内が分裂してしまったからです。

しかし、なんともならなかった。
そんなとき出会ったのが、「いい加減」という言葉でした。
これは元来、仏教用語で、
物事にはふさわしいバランス、程度があるという意味です。
そうか、スローガンにもバランスが必要なんだ。
そう思い至って、パッと浮かんだのが温泉の光景です。
社員みんなで気持ちよくお湯に浸かっている。
この会社をそんな心地いい場所にしたい。
それにはいい湯加減───そうか、42℃だ。
よし、42対58のバランスでスローガンを考えてみよう。
そうすれば「いい加減な状態」が生まれないだろうか。
42℃経営の発想はこうして生まれました。


[今、重要視されていることをあえて2番にする]

ビジネスにおけるスローガンは、
普通であれば「競争」に類するものでしょう。
しかし、僕はあえて競争を2番に置き、
その対極にある「協力」を1番に置くことにしました。
つまり競争が42で、協力が58。
少しだけ協力のほうが多い。

今の世の中は、誰にとっても心地いい状態、
42℃の状態にはなっていないのではないでしょうか。
これまでたくさんのお金持ちと呼ばれる人を見てきました。
しかし、どんなに資産を築いても皆が戦々恐々としている。
つまり、彼らは資本主義の究極に到達してもなお幸せではない。
そんな世の中なら、そもそも誰も幸せになどなれないのではないか?
こんな疑念をずっと抱いてきました。

だから、僕は会社のスローガンをこう掲げました。

我々2番、クライアント1番。
売上げ2番、生き様1番。
競争2番、協力1番。
自分2番、相手1番。
考えること2番、感じること1番。

僕は経営者です。
お金や競争を、ましてや資本主義を否定しているわけではありません。
しかし、現状の資本主義はあまりに行きすぎている。
他人を蹴落とし、自分さえよければそれでよい。
そんな独善的な、「ミー・ファースト」がはびこっている。
だからこそ、資本主義をあえて2番に置くことで、
誰にとっても心地よく、自分らしく働くことができる。
そんな組織を作りたい。ミー・ファーストではなく、
「ミー・セカンド」と胸をはって言える集団を作りたい────そう思うのです。

42℃経営とは、言い換えてみれば、
人を幸せにする経営です。
理想的すぎるかもしれません。
けれど、僕を含め、誰かが“生きにくさ”を感じている以上、
トライする価値はある。
そして、成功させる意義もあると思っています。