僕は29才で社長と呼ばれるようになりました。
部下に「社長」と声をかけられた瞬間。
感じたのはうれしさではなく、怖さでした。
それまでは他の誰かを社長と呼んでいた。
しかしこれからは頼れる人はいない。
その現実を突きつけられ、
不安と重圧が一気に押し寄せてきたことを覚えています。
社長とはどうあるべきか。何をするべきか。
蛍光灯がちかちかと切れかかっている。
それを替えることは果たして社長である僕の仕事なんだろうか。
そんな一挙手一投足までが縛られ、
まったく身動きがとれなくなっていました。
結局のところ、僕にはなんの準備もできていなかったのです。
おかしな言い方ですが、
経営者にはなりたくてなったわけではありません。
詳しくはまた別の機会にあらためますが、
あの阪神大震災で勤務していた会社が倒産し、
自分ともども途方に暮れていた18名の部下を率いて、
半ばは勢いで会社を興したのです。
もちろん、なんとかなると思っていました。
仕事には絶対的な自信があったし、
過ごしてきた人生で失敗した経験はほとんどありません。
不遜にも、自分には人より少なからず能力がある、
そう信じていました。
しかし、なんともならなかった。
事務所の経費、そして社員の給与を支払ったら、
資本金として用意していた1千万円は
わずか1ヶ月で消えてなくなりました。
そして、自信も持っていた営業も、まったくふるいません。
1ヶ月目、僕は会社までの定期券を買いました。
2ヶ月目、悩みましたが、やはりまた買いました。
3ヶ月目、僕は定期券を買いませんでした。
社長である僕が買ったのは回数券だったのです。
毎朝、会社に行くと机の上に部下の辞表が置かれていました。
僕の経営者としてのスタートは、
こうして闇の中からはじまりました。
しかし、思えばこの経験こそが、
僕に光を与えてくれるきっかけになりました。
闇から光へ。
次回、そのお話をしたいと思います。